今、お店の転機にあたって記しておこうと思います。
これからの話は全て実話です。
Chapter1 【マスターのHANAの記憶】
ハワイ諸島で2番目に大きな島、マウイ島。
高級リゾート地として有名なこの島の空港に、僕はバックパックひとつ担いで降り立った。
まだ30代の頃の話だ。
日本からのツアーには便乗せず、宿の手配もしないまま、
往復の飛行機のチケットだけ持った、まさにバックパッカー気取りの気ままな放浪だった。
マウイ島はリゾート地とはいえ、その面積のほとんどは人の手が入らないで残されている。
3000メートルを超す休火山や、天を突き刺すようにそびえ立つ渓谷。
まるで映画のジュラシック・パークに来たみたいだと、その時思った。
その島の端っこに、『HANA』という小さな町がある。
太平洋上に浮かぶ島の、更に隔離された町。
天国のような町だと聞いた・・・ぜひ、行きたい。
しかし、HANAへ行くには、熱帯雨林の中や切り立った海岸沿いを
600のカーブと54の橋を越えてドライブするしかないという。
僕は、空港のカウンターの職員に聞き出した安宿で何とか滞在先を確保。
翌日、レンタカーを借りて、その町を目指した。
『天国のような町』HANAまでの道のりは、
シダのような樹木が生い茂る熱帯雨林の中や、切り立った海岸沿いの道で
かろうじて舗装はされているものの、車がすれ違うのが困難な細い場所やヘアピンカーブが
連続していて、この先に本当に人が住んでいるのだろうか?というとんでもないものだった。
マウイ島は、ハレアカラ火山の噴火で隆起した二つの島がくっついた島で
平地は少なく、3000メートルを超すハレアカラ火山の裾に広がる大密林は
ほとんど、人の手が入っていない原生林のまま・・・。
大陸とは違う、特有の動植物が独自の生態系を作っている。
本当に、ひょっこりと恐竜が出てきそうな雰囲気だった。
誰が数えたのかは知らないが、600のカーブと54の橋を越えて
島の中心地カルフイから90キロの、HANAの町にようやく辿り着いた。
小高い平地に切り開かれた集落では牛が草を食み、真っ青な海が後ろに広がっている。
ビーチへ降りると、火山灰で出来た真っ黒い砂浜(ブラックビーチ)で、
人も少なく静かな雰囲気は、まるで映画の中の様な光景だ。
そして、見たことのない花々が咲き乱れ、聞こえてくるのは静かなさざ波の音と
ブーンという蜂の羽音だけ・・・まるで、そこだけ時間が止まったかの様だった。
本当に、『天国ってこんな所なんじゃないか』と、その時思った。
HANAには小さな雑貨屋があって、それは昔よくあった様な
日用品も野菜も惣菜も、全部一緒くたになって売っている、田舎のスーパーの様な店で
名前は「ハセガワ・ストア」・・・きっと日系の方がやっているのだろう。
そこには怪しい土産物も積んであって、
いかにもなカウボーイ風の格好のおじさんがジャケットに描かれたCDとかがあって、
現地のハワイアンミュージックだし買って帰ろうかと思ったけど、
ちょっとベタすぎるかなと思い、止めておいた。
スパムおむすびがあったので、お昼ごはん代わりに買って、海を眺めながら食べた。
照り焼きソースが塗られていて、何ともエキゾチックな味だった。
Chapter2 【お慶のHANAの記憶】
当時、20代の私は、両親とハワイのマウイ島に降り立ちました。
ホテルに滞在していましたが、特に予定も決めていない旅でしたので
レンタカーを借りて観光をすることになりました。
ひと通りの観光地を廻り、ショッピングなどもしましたが、やはり
「せっかく自然の残るマウイ島に来たのだから奥地に行ってみようよ!」ということになり、
翌日、改めて『HANA』という村を目指すことになりました。
そこは、いくつものカーブが続く秘境です。
途中には南国の花が無人販売されていたり、動物が放牧されていました。
行けども行けども 木立の中を進むだけ・・・。
そして、何時間もかけて やっと辿り着いたそこは
まるで天国・・・『楽園』でした・・・。
私は、薄く靄(モヤ)のかかる景色を見下ろしながら
いつまでも溜息を付いて、夢心地でいたような気がします。
小さなビーチは絵画のように綺麗でしたし、
日本人など見かけないこの村では、私たちが異邦人・・・。
英語の苦手な私は、現地のマーケットでは買い物もままならず
現地の思い出になりそうなものを選んで買ってきました。
残念ながら、写真はあまり残っていないのですが
私の記憶の中には、いつまでも色褪せることなく
その時の情景や感情を繊細に覚えています。
『こんな風に大自然に抱かれた場所で、穏やかに暮らしたいな・・・』
『いつか自分に女の子が生まれたら、名前を《ハナ》と名付けたい』 と強く思いました。
もうこんな秘境には、二度と来れないかも知れないと思い、
精一杯、目に焼き付けて・・・心に想いを詰め込んで日本に帰ってきました。
Chapter3 【新しい一歩・HANA】
・・・それから数十年が経ち、それぞれ秩父に移住し、お店を営んでいた私たちが偶然に出会い・・・
とある日の会話・・・
お慶『私ね、マウイのHANAって言う場所が大好きでね
すごい山の中で、やっと買えたお土産が、怪しいハワイアンカントリーのCDでね・・・
HANAっていう名前を、自分の店にも使おうかと思ったくらいなの』
マスター『僕もHANAに行ったことあるよ!!
こんな話、出来る人がいると思わなかった・・・』
なんと、マスターが購入をためらったあの怪しいカウボーイのジャケットのCDを
お慶が持っていたということがわかったのです!
友人として知り合ったふたりが、ひとつのHANAという記憶を共有していたことに気づき、
ふたりの人生観に少なからず影響を与えてくれた場所と人と、運命が一致した時、
理想のお店をいっしょに作るという新しい一歩を踏み出すこととなりました。
そして、お互い夢に描いていた大自然の中での穏やかな暮らしが始まりました。
この秩父の、定峰峠へ向かう曲がりくねった細い道も、どことなくあの道程に似ている。
春先に桃源郷のように花が咲き乱れる様も、あの町を彷彿とさせる。
新しいお店の名前を『ジェラテリアHANA』にすることに、もう迷いはありませんでした。
今でも、あの時の あのHANAで見た景色と、秩父の定峰峠との景色が重なる時があります。
お店というのは、人と一緒で成長し、同じところで足踏みしているわけにはいきません。
常に新たな挑戦をして、お越しになる御客様に新鮮な驚きと感動を感じてもらわなければ。
これは開店以来ずっと貫いてきたポリシーです。
大げさに言えば、それが私たちの生き方です。
あの時の美しい光景を思い出し、私たちがこれからしていかなくてはならない事の原点として。
あの町が、あの時の私たちにとってそうだったように、
定峰峠の途中のこの場所が、一介の旅人にとって心のオアシスになれるように想いを込めて。
こだわって作ってきたジェラートやホットドッグなどは、更に気持ちを込めて良いものを。
そして新たな魅力も加えて、どこにもないオンリーワンな店を目指して・・・。
今後とも、ご愛顧をお願い致します。
ジェラテリアHANA 店主(マスター) イニミニマニモ雑貨店 店主(お慶)